the 30th Anniversary of Mizutani Foundation for Glycoscience
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13 水谷糖質科学振興財団の設立30周年記念に際し、水谷建理事長はじめ関係者の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。 水谷糖質科学振興財団は、国内外における糖質研究者の独創的な基礎研究に対し研究助成を行うこと、研究者の国際交流に対する支援や糖質関連学会の開催に対する援助を行うことなど、糖質科学の振興を通じて人類の福祉に貢献することを目的として活動されています。これまでの多くのサポートに対して、糖質研究に携わる者として御礼を申し上げます。 さて、前回の設立記念事業25周年からの5年間に起こった最大の出来事は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行、パンデミックと言えます。不要不急の外出や外食の自粛、密を避ける行動など、コロナ禍での我々の生活は大きな影響を受けました。例えば、東京オリンピック・パラリンピックは一年延期、卒業式、入学式、運動会などの学校行事は中止、授業は対面ではなくオンライン形式などの対応が取られました。また、研究関連では実験の制限、国内外の学会やシンポジウムの中止、延期あるいはオンライン開催など、研究活動も大きな制約を受けました。当財団の選考委員会もここ2年間はオンライン開催としました。これまでの日常が非日常となり、非日常が日常となった感がします。 ところで、約100年前のスペイン風邪に比べて新型コロナの拡散速度は、圧倒的に速く「あっという間」に世界中に拡散しました。地球の人口増加や移動手段の変化などが原因です。ただ基本的な感染対策は、マスクの着用、手指消毒、感染者の隔離などスペイン風邪流行当時とほぼ同じでした。しかしながら、この間の科学の進歩により、原因ウイルスの同定、変異株の検出、PCRによる診断などが可能となりました。また、新たな免疫誘導の仕組みであるmRNAワクチンの開発、抗体医薬や飲み薬の開発により、ウイルス感染状況や感染者の病状をかなり制御できるようになりました。いずれの開発においても、生化学、分子生物学、ウイルス学、免疫学など脈々と培われてきた基礎研究の成果が大きく貢献したことは言うまでもありません。 IT、AI、SNSなどが我々の日々の生活スタイルを大きく変化させています。第6期科学技術・イノベーション基本計画では、新たな研究システムの構築としてオープンサイエンスとデータ駆動型研究などの推進が取り上げられています。生命科学系でもバイオDX(デジタルトランスフォーメーション)の名を冠した複数のプロジェクトが立ち上がり、これまでに蓄積されている公共データベースのデータを利活用するという方向性が示されています。糖質はその複雑性ゆえにデータベースの構築が未成熟ですが、現在進められているデータベースの整備後、その利活用による新たな糖質研究が展開することを期待します。これに関連する動きとして、名古屋大学の門松健治先生を中心とした「ヒューマングライコームプロジェクト」が、文部科学省のロードマップ課題に採択されました。このプロジェクトで得られる糖質研究の基盤となる成果は、生命や病気の理解、生命科学の新たな展開、そして医療への応用が期待されます。 設立者である水谷當稱氏、並びに水谷建理事長、お二人のご挨拶を財団ホームページで改めて拝見しました。共に強調されているのは「基礎研究」という言葉でした。今回の新型コロナ感染症の流れの中で、精緻な基礎研究の成果は我々の身近で使われる、そのことを広く国民に知って頂けたと思います。一方、抗凝固薬ヘパリン、インフルエンザの特効薬、抗体医薬の機能調節など糖質の基礎研究から数多くの医薬が生まれている事は周知の通りです。今後糖質科学を含む基礎研究の一層の推進が、新たな変異株の出現や新興・再興感染症への対応、そして未だ治療法のない疾患に対する新たな創薬や治療法開発への道筋を加速することを確信しています。 今回の記念事業では素晴らしいご講演が予定されておりますので、どうぞご堪能ください。最後に、我が国と世界の糖質研究への援助を感謝しつつ、水谷糖質科学振興財団の益々のご繁栄をお祈り申し上げます。

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